SSブログ

「怪談」 (中編) [怪談]

3部構成になっています。初めてのカタは下 「怪談(前編)」 からどうぞ。 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 京都は四方を山に囲まれた、絵に描いた様な盆地である。
昼間の暑さもさることながら、夜間の暑さと蒸しかえる湿度は並ではない。
強烈な夏の太陽によって焦がされた大気と湿気が、出口の無い盆地で行き場を
失い、こもって充満してしまうのだ。

クーラーが無い事、部屋が狭過ぎる事がさらなる追い討ちをかける。
悪いことにこの部屋は最上階だ。
手を天井にかざせば、灼熱地獄と化した屋上コンクリートの余熱が深夜になっても
手のひらにしっかりと感じられる。

引き違いの肘掛け窓ひとつと、持ち込みの扇風機しか対抗手段は無いのだ。
窓を開き、扇風機を「微風・旋回」で夜通し稼動させることになる。
体に良くはないのだが、こうしないととてもではないが寝付けない。

寝入りばな、つま先が重さを感じ始めた。
(ああ、またか・・・)

 高校2年の時分、初めて体験した時こそ恐怖した「金縛り」だが、週に2~3回
を2年も付き合えば、単なる「嫌な生理現象」に過ぎなくなってしまう。

レム睡眠とノンレム睡眠、そしてちょっとした体調や精神的不調が原因となる。

ひとことで「寝る」と言っても体全てが寝るわけではない。
脳が眠りにつくと、体は起きる。体が眠る場合は、脳が起きる。
脳・体のいずれか一方が起きており、生命維持のため機能しているのだ。
およそ1時間半、つまり90分でこの役割りは交代される。
これがヒトの睡眠なのだそうだ。

脳が働き、体が休んでいる時に何かのはずみで脳が完全に覚醒してしまう。
はっきりと意識があるのに、体は眠っているため全く動かない。
これが「金縛り」なのだ。
度重なる理不尽な現象に対応すべく、さまざまな本を読んで出した答えだ。
霊感が皆無な僕はこの現象を「心霊現象」として認めたくなかったのだ。

 僕の場合、それはつま先から始まる。
上から押さえ付けられた様な「重さ」を感じるのだ。
「重さ」はゆっくりとその範囲をひろげながら、頭を目指し這い上がる。
全身が重さに支配された時点で、金縛りは完成してしまう。

冗談ではなく、体がまるで言うことをきかない。
小指ひとつ動かせないどころか、瞬きすらできないのだ。
このなんとも言えぬもどかしさ・いらだたしさが恐怖をあおるのだ。

「生理現象」とたかをくくっていても楽しい現象ではないので、いつもの僕は抵抗
を試みる。
寝返りをうってみたり声を出したりすれば、金縛りが完成しない時もあるのだ。

 その夜は違った。
どうにも疲れており、そのまま寝入ってしまおうとしたのだ。

貝殻やコップなどを耳にあてると聞こえる「ごーー」という音。
自身の血流の音なのだが、金縛りが完成してしまうと僕はこの耳鳴りが始まり
まわりの音がほとんど聞こえなくなってしまう。

ごーーーっ。
耳鳴りが始まってしまった。
身動きひとつできぬまま、それでも僕は眠ろうとしていた。

ふと。
顔に風があたる。
扇風機の微風だ。

また顔に風があたる。
・・・とても弱い。そしてなまあたたかい。

眠ろうとしているのだが、なかなか寝付けない。

顔に風があたる。
同時に背中に風を感じる。扇風機の風だ。

間を置いて風が顔にあたる。
扇風機は依然、僕の背中に向けて風を送り続けている。

・・・窓からの風であろうか。

顔に風があたる。
湿気を含んだ、なまあたたかい風だ。熱帯夜ともなれば風すら熱を持つ。
そんなものだ。

うつろな頭の中に生じてしまったささいな疑問が、僕の睡眠を妨害する。

顔に風があたる。
・・・吹いては止まるこの風はどこか不自然だ。

顔に風があたる。
・・・自然の風にしては、吹く間隔があまりにも均一だ。まるで?

顔に風があたる。
まるで機械のような正確さだ。
なんなら次に吹くタイミングすら簡単に推測できるほどだ。

・・・今だ。
顔に風があたる。

これは風ではない。少なくとも自然のものではない。
本能はとっくにその正体を見抜いている。
理性がそれを拒否する。・・・ありえない。そんなハズがない。
冷たい感覚、恐怖が生じ、寝入ろうとする僕を完全に覚醒させてしまった。

顔に風があたる。

絶望的ともいえるその正体を、僕は受け入れざるを得なかった。


これは、顔にあたるこれは 「 呼吸 」 だ。

(後編) http://blog.so-net.ne.jp/udauda/2005-02-25


nice!(0)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 3

mayumi

いやん・・・
背中がゾクゾクして来た・・・。
by mayumi (2005-02-21 15:24) 

ばばる

ひょえー。
金縛りはあったことあるけど・・・。ビクビク。
by ばばる (2005-02-21 17:28) 

ちゅら

この寒い時期になお寒いです。
私も金縛りあるのですが
たまに金縛りだけで終わらんこともあります。
怖い\(◎o◎)/!そんな体験もしばしば
こんなの嫌だ、見ないで済むなら体験しないで済むのなら
そんなこと考えたことあります。ぶるる..おしっこいけない(>_<)
by ちゅら (2005-02-21 20:17) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

「怪談」 (前編)リヴリー戦記 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。